サガシモノ
水原先生はゆっくりと顔を上げる。


そして口角を上げてニヤリと笑ったのだ。


「あの女、あの時計を売って借金の返済に回そうとしてたんだ。なかなかの品物だと思ったんだろうなぁ」


ヘラヘラと笑いながら話す水原先生は、今まで一度も見たことのない顔だった。


まるで欲望に塗れた悪魔のような表情。


「未成年が持ってる時計なんて、大した価値じゃねぇだろ」


海が言う。


「ハハハッ! 違うんだ。それがぜんっぜん違うんだ!!」


体をテーブルの前にのめりだし、唾を飛ばしながらそう言う。


異様な光景にあたしと渚はソファの上で手を握り合った。


怖い。


素直にそう感じる。


「あの時計は飯田アキラが肌身離さず持っていた!」


水原先生の言葉にあたしは映像を思い出す。


確かにその通りだ。


イジメにあっていても飯田アキラはずっと時計を身に付けていた。


「家に置いておいてくれれば簡単に盗みに入れたのに! あいつはそれを見越して毎日腕につけてたんだ!!」


簡単に盗みに入れた……?
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