サガシモノ
「それってどういう意味だよ? あんたもあの腕時計を狙ってたってことか?」


海が聞く。


「当たり前だ!!! 郁美はあの時計をただの時計だと思って盗んできた。価値を知らないバカな女だったが、俺は違う!! あの時計がどんなものかちゃんとわかっていた!!」


怒鳴り散らす水原先生。


どういう意味?


あたしには全然わからない。


あの腕時計はどれだけの価値があったっていうの?


「あの時計の価値を知っていれば、飯田アキラが大人しかった理由もすぐにわかる」


「なんですか、あの腕時計の価値って」


あたしは恐怖を押さえてそう聞いた。


飯田アキラにとってとても大切で、人から盗まれるような腕時計。


「あの時計は、時間を戻す事が出来るんだ」


水原先生の言葉にあたりは一瞬にして静かになっていた。


今、なんて言ったの?


驚きすぎて声にならない。


「時間を戻してすべてをやり直す事のできる腕時計。それは飯田アキラの家に伝わる品で、受け継がれた者は肌身離さず、大切にしなければいけない。


それが掟だ。飯田アキラは腕時計を受け継いだ時から目立たない性格の生徒になった。腕時計の存在に気づかれないように、自分自身の性格まで変えたんだ」
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