サガシモノ
それを見て、栞が笑った。


輪郭が歪み、顔がわからなくなった栞が、笑った。


「行こう!」


腰の抜けたあたしをひきずるようにして渚が部屋を出る。


どうにか自分の力で立ち上がり、階段を転げるようにして下りて行く。


「あら、もう帰るの?」


玄関まで来て後ろからそう声をかけられた。


振り向くとお盆にジュースと3つのグラスを乗せて持っている栞のお母さんが立っていた。


あたしと渚は目を見交わせた。


どうして普通にしていられるんだろう?


そんな疑問が浮かんできた。


部屋にいるのは栞じゃなかった。


顔の歪んだ、誰だかわからない女の子だ。


それなのに……。


「栞は……どこにいるんですか?」


渚がそう聞いた。


するとお母さんは不思議そうな表情を浮かべて「自分の部屋にいるでしょう?」と、聞き返して来た。
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