サガシモノ
「ちょ、ちょっと待ってくれ」


近藤先輩は陽の言葉を遮って、指でこめかみを押さえた。


顔をしかめて頭痛を耐えているようなしぐさだ。


「お前ら、1年生だけで旧校舎へ行ったのか?」


「はい」


陽は大きく頷いた。


近藤先輩があたしと渚へ視線を向ける。


その目は吊り上がっていて、明らかに怒っているようだった。


「す、すみません! 近藤先輩に止められていたのに行ってしまって……」


慌ててそう言うと、近藤先輩はすぐにあたしたちから視線を外して、陽を見た。


「で、栞がいなくなったって?」


「はい。でも正式には家にいました。だけどそれは栞じゃなかったんです」


陽の説明に近藤先輩は眉間にシワを寄せた。


「言いたいことはなんとなくわかる。本人であって本人じゃない人間が、栞としてそこにいたってことでいいか?」


飲み込みの早い近藤先輩に、陽はホッとしたように頷いた。
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