サガシモノ
せめて、普通の人間でありますように。


そんな気持ちで廊下を進んでいく。


「外から見たのは一番奥の教室だったよな……」


海がそう言い、「あぁ」と、健が返事をした。


男子たちの歩調も、心なしかゆっくりになっている気がする。


怖くないわけがないんだ。


しかし、廊下を進み突き当りが見えた時、あたしの胸に違和感が膨らんでいった。


それは一番前を歩いていた海にも言える事で「なんだよこれ、どうなってんだよ」と、ブツブツと呟く声が聞こえて来た。


「ちょっと、どうしたの?」


渚がそう言ったとき、海が足を止めたのであたしたちは全員その場に立ち止まることになった。


「海、なにが……」


渚が途中で言葉を切った。


後ろからでも見えていたのだろう。


「なに、どういう事?」


すかさず混乱した声が聞こえて来る。


「俺にだってわからねぇよ。でも……教室のドアがない」


海が少し震えてそう言った。


そう。


外から見た教室の場所にあったのは、ただの壁だったのだ。


「冗談だろおい……」


健が手を伸ばして壁に触れる。
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