俺が彼女に会えない理由
よく街なかで見かけるおばあちゃんが押している買い物カゴというのか、押し車というのか、シルバーカーというのか、正式名称は知らないが、それを押しながら倉本が現れたのだ。

「ばあちゃんから借りて来た」と照れ笑いしていた。

「紙袋を二枚重ねして持って行こうとしたんだけどさ、ちぎれそうになって。それで、ボストンバックに詰め込んだら、重くて手が痛くてさ。しょうがないから、これにした」

「倉本、マジで感謝するわ。これ、目立っただろ」

「ある意味、目立った。めっちゃ恥ずかしかった。でも、すげえ楽。ヤバイくらい便利。正直、気に入った」

俺たちは笑い声を上げ、60巻もの単行本を詰め込んだ押し車を押して家に向かった。

俺が、初めて友達を家に呼ぼうと思ったのは、母が再婚したことでぼろアパートから普通のマンションに引っ越せたということと、倉本なら何を見せても決して人を見下さないと信用できたからだ。

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