俺が彼女に会えない理由
限りある時間は、信じられない速さで過ぎていった。

残された時間があまりにもすさまじい速さで過ぎてしまうから、感情と行動が追いつかない。

きっと最後の日の朝は、目が覚めたら、別離を思って悲しむか恐れるんじゃないかと思っていた。

あるいは、抱いたことのない感情に溺れるか。

けれど、実際に最後の朝を迎えると、いたって普通のいつもの朝だった。

特に取り乱すこともなく、昨日と同じような朝がまた来ただけだった。

カタンコトンとキッチンから調理の音が聞こえて、少しずつ料理の香りがしてきて、という平穏な朝。

不思議にも、こういう朝はずっと以前から続いていて、明日以降もずっと続くような、そんなふうに感じられるのだった。

実際には、日常から切り離された、隔離された、一場の夢のような非現実なのだけれど。

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