俺が彼女に会えない理由
やがて風花は俺の胸から顔を引き離し、涙をぬぐい、顔を上げて俺を見つめ微笑んだ。俺もつられる。

こんな気持ちになるなんて、いつ以来だろうか?
心の氷が溶けだすような感覚を覚える。

風花は、何もかも高校のときのままだ。

二重で黒目がちな目も、白肌に桜が咲いたような頬も、艶やかな黒髪も、制服の着こなしも。

それに、ユーレイとは思えないほど、香りまであの頃と一緒だ。
風花の髪の香り、リップクリームの香り。

事故に遭ったはずだが、生前と変わらないそのつるつるとしたなめらかな肌に釘付けになる。

葬儀で別れ花の儀式で見た姿とはまるで違う。

最期の顔を見たとき、底なし沼に足をとられたように全身が重たくなって、その場から動けなくなった。

不慮の死を遂げた恋人に捧げる悲しみの言葉は、いくら述べても足りないくらいだった。

会いたくても、もう二度と会えないとどれだけの涙を流したことか。

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