俺が彼女に会えない理由
夜9時59分。

腕時計に目をやった里花さんが、最後の力をふりしぼるように告げる。

「風花が消えたあと、すぐに生き返らせるからね。・・・どうか、元気でね。今までのすべて、ごめんなさい。そして、ありがとう。あなたを、心から愛していました」

「お母さん、お父さん、ありがとう」

そのとき、風花がよろめいて、俺は瞬時に手を伸ばして支えた。

「ああ、もう、なんかダメみたい。足が、地面につかない。体が、ふわふわ浮いてきた」

「風花!!」俺はつなぎ続けている風花の手をさらに強く握りしめた。

「風花が、風花が・・・」俺は両親に風花の現状を伝えようとしたが、悲鳴に近い叫びになってしまう。

風花が、空に浮いていく。

「冬弥くん、またね。私のこと忘れないで・・・」

大粒の涙がとめどなくあふれだした、風花の目からも自分の目からも。

「泣かない約束、守れなくて、ごめんね」

少しずつ高いところに昇って行くと同時に、風花がつま先から消え始めた。

「必ず、探しに行くから。絶対、行くから」

「風花ー!!」



夜10時00分。

夜空に吸い込まれていくように、風花は消えた。

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