俺が彼女に会えない理由
エピローグ
１９９７年。５月。

小学校五年生の添嶋冬弥は、かつてない不思議な経験をした。

その日は、学校で嫌なことがあった。

学校の先生が、「次の体験学習は、能楽師の先生を招いて、みんなに能を体験してもらいます」と言った。

そして、能の説明を始めようと、先生が黒板に能のお面の写真を貼った途端、クラス中が「冬弥にそっくりだ！」と騒ぎ出した。

冬弥は、自分の細い一重の目がバカにされていることを瞬時に悟ってうつむいた。

笑いの嵐が過ぎ去るのを口を真一文字にして、ひたすら待った。

そのまま暗い気持ちで一日を終え、自分の一重の目を恨みがましい気持ちで下校した。

家のアパート前に着くと、女の人が一人立っていた。

一瞬、母かと思ったが、よく見ると母とはまるで違っていて、化粧もしているし着ている服も綺麗だった。
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