俺が彼女に会えない理由
「おはよう。朝ごはん、作ったの。ごめんね、勝手に作っちゃって」

「おはよ。作ってくれたのか、ありがとう」

「12年ぶりに料理するから、腕は落ちたと思うけど」

そうっと起き上がるがあちこちに痺れるような痛みが走る。
床の上で寝たせいで体のいたる所が痛い。
一晩でこれでは、この先が思いやられる。

洗面台で顔を洗いながらコンロの前に立っている風花に顔を向ける。

「今日、仕事が終わったら、すぐ映画館に行くから」

「うん!チケット売り場あたりで待ってるね」と風花はコーヒーを入れながら返事をした。

ふと、不思議な気持ちでいっぱいになった。

風花が、ここに、俺のこの部屋に存在しているなんて、絶対ありえないことなのに、いつもの日常生活というようにすっかり馴染んでいる。

この平穏な幸せを失いたくない、そう強く願った。
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