俺が彼女に会えない理由
けれど、あまりにも思いつめた顔をしているときがあった。
本人は気づいていなくて無意識だったのだろう、俺が「どうした?」と声をかけると、「え?なんでもない」と笑ってごまかした。

悩みの種をしつこく聞くようなことはしたくなかったから、それ以上、尋ねることはしなかったが、何を思っていたのだろう?

12年間、これらの疑問をひたすら考え続けているが不明なままだ。

一生、解けることのない、永遠の謎。
闇に葬られたまま、宙を浮遊し続けている。

彼女の命日には、毎年、彼女の家を訪れて両親に挨拶し、仏壇に線香を供えている。

今年は、仕事の都合でどうしても命日に休みがとれず、彼女の両親にお詫びの電話をすると、「かまわないよ。いつでもおいで」と相変わらず心優しい声が返ってきた。

今日は線香を供えることができない代わりに、朝一番に手を合わせた。
一人暮らしの部屋に仏壇はないから、窓を開け、空に向かって手を合わせた。


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