俺が彼女に会えない理由
風花があの言葉を言ってくれたとき、うれしさに舞い上がってお礼を言うのを忘れてしまった。

浮ついた足取りでそのまま帰宅してしまい、夜、眠るときになって、「ありがとう」くらい言うべきではなかったのかと気づき反省したのだった。

けれど、翌日、改まってお礼を言うのもなんだか変な気がして、どうしようかなあと思っているうちに日が経ち、結局、そのままお礼を伝えることはなかった。

その代わり、何かと風花の役に立てるように、味方になれるように、言動で風花に恩返しができるよう努めた。

たとえば、クラスで一番背の低い風花の上履きを意地悪な連中がわざと風花の手の届かない掃除道具入れの棚にのっけたときは俺が取り返した。

またあるときは、午後になって雨が降り、傘を持って来ていない風花に傘を差しだした。

風花が嫌いな給食のおかずも食べた。
ベーコンとそらまめの炒め物とか黒豆の甘煮とか、風花に「代わりに食べて」と言われれば、先生に見つからないようこっそり食べた。
なぜか、風花はそらまめとか黒豆とかグリーンピースとか枝豆とか、丸い粒のものが嫌いだった。

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