俺が彼女に会えない理由
まず、我が家にはエプロンがなかった。

小学校から中学校を卒業するまで、俺は鍵っ子で、下校して帰宅するのは毎日無人の家だった。

パート先のスーパーマーケットから母が帰宅するのは、夜九時過ぎで、それまでは空腹をカップラーメンかパンの耳を食べて過ごしていた。

パンの耳は、近所のパン屋に行けば、店主のおじさんが快く袋詰めでくれた。

母は帰宅すると、スーパーマーケットの半額シールが貼ってある惣菜をちゃぶ台に2つ3つ並べた。

そういう毎日だったから、母が料理を作ることがそもそもほとんどなかった。

それに、化粧をすることもなく、いつも履き古しのズボンとスニーカーを履いていた。

いつ見ても白肌に艶やかな唇で、長いロングの髪をふわふわと巻いて、ハイヒールに綺麗な服を着ている風花のお母さんとは、まるで違った。
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