俺が彼女に会えない理由
自分の母が、悪い母だったという意味では決してない。

母には時間的にも経済的にも余裕がなかっただけだということは、よくわかっている。

だが、自分の母と風花のお母さんを比較せずにはいられなかった。

子供心にも、その違いは悲しいほど歴然としていて、風花のお母さんの小奇麗さと良妻賢母ぶりに、羨望の眼差しを向けずにはいられなかった。

表情の穏やかさ、物腰の柔らかさ、気品、何をとっても雲泥の差があった。

母は、俺が母のお腹にいるときに事故で他界した父に代わって、家計を支えなければならなかった。

車を運転中に起こした心筋梗塞による失神発作が原因で、電柱に激突した父の死後、手に入った父の生命保険は父の借金にあてて使い果たしてしまったと聞いた。

なりふりかまわず一日一日を必死に生きるしかなかったのだろう。

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