俺が彼女に会えない理由
だけど、当時の俺は、そういう母に迷惑をかけないようにしようと思いつつも、好きにはなれなかった。

生きることに必死な母が、情けなくて恥ずかしくて、誰にも見せたくなかった。

風花やクラスメイトたちが、自分が住んでるぼろアパートの部屋を見てどう思うのか、考えただけで恐ろしくて、誰一人として招いたこともなかった。

何より、母の無知さや無学さが嫌でたまらなかった。

あれは、忘れもしない小学校六年の夏休みのことだった。

クラスメイトたちが、祖父母の家に行ったり、旅行に行ったり、動物園や海水浴に行く中、どこにも行けない俺はすねたことがあった。

「ごめんね。仕事を休むわけにはいかないから・・・」と、母は謝ったが、別に謝ってほしいわけではなかった。

その後日、職場のスーパーマーケットの上司からもらったというチケットをひらひらと見せてきた。

「冬弥、やったよ。映画の無料招待券をもらったよ。次の休みの日、一緒に、見に行こう!」

それまで、映画館に行ったことのない俺には夢のような話しだった。
母も、珍しく浮足立っていたのだが。
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