俺が彼女に会えない理由
そう尋ねる母はおどおどしすぎていて見ていられなかった。

そのうえ、この場になっても無料かどうかを確認しようとするのが恥ずかしくて、俺はもう帰りたくなった。

「ご入会の際に、お一人様、年会費3500円をいただいております。ご入会いただきますと、毎回、会員料金でチケットをご購入いただけますが」

母の顔から血の気が引くのがわかった。

「お母さん、帰ろうよ」

俺は、母のスカートをそうっと引っ張った。

ズボンしか履かない母が、映画を観に行くということで、珍しくめかし込み化粧もしていた。

皮肉なことに、せっかくの装いもむなしい限りだった。

きっと、誰も俺たち親子のことなど見てはいなかったと思うが、その係員や周囲の目が気になって、一刻もその場から立ち去りたいという気持ちしかなかった。

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