俺が彼女に会えない理由
「そうですか・・・」と、母がその場からとぼとぼと歩き出した。

どこへ向かうのかと思ったら、「冬弥、一人で観ておいで。母さんは、ちょっと用があるのを思い出したから」と言い、窓口に向かい、俺の分のチケットだけ買うと、手にチケットを握らせた。

「ほら、早く行かないと始まっちゃうよ」

有無を言わさず、そう送り出された。

結局、入会しないことを選択し上司からもらった招待券は使わず、通常料金で買ったようだった。

大人の通常料金は1800円だったと思う。
母には、我慢するしかなかったのだろう。

せめて、俺だけには観せたいという母の愛情がありがたい反面、うとましかった。

ファミリー向けのハリウッドの超大作で面白いにちがいなかったが、あまり楽しめなかった。
二時間半後、出口に行くと母が立って待っていた。

どこで何をして時間をつぶしていたのか気になったが、あえて聞かなかった。
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