俺が彼女に会えない理由
母との二人暮らしは、母が再婚するまで続いた。

俺が中学二年のときに、勤め先のスーパーマーケットに出入りする食品会社の社員と再婚した。

「真面目な人で、再婚を考えてるんだけど」と、母がさりげなく打ち明けてきた。

「結婚すれば、今の生活よりうんと楽になるし、優しくていい人なのよ。母さんのことも、冬弥のこともちゃんと面倒みるって言ってくれてて・・・。今度、家に連れてきて紹介したいんだけど、いい?」

俺の顔色をうかがうように話していたが、ことさら反対する気はなかった。
母が少しでも楽になるなら、どんなことでも大歓迎だった。
母と俺の面倒をみてくれる人が現れたなら、こんなうれしいことはない。

貧しさから一日も早く抜け出したい、その一心だった。

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