私に恋してくれますか?
「えーと、最近知り合った男性で、五十嵐 透さんという、29歳の方です。
…輸入雑貨店をしているみたいです。」と話しながら歩くと、

「お付き合いを始めたばかりだったから、旦那様に言えなかったんですね。
雑貨店ってお店ですよね。
何店舗くらいのあるのですか?」と静子さんは頷きながら聞くので、
「ええっと、2店舗だったかな?今度3店舗目をどこに出店しようかって言っていました。」

今日わかったにわか仕込みの情報を言ってみる。

「そうですか…それでは、そう裕福と言う訳ではなさそうですね。
旦那様にお話できない気持ちはわかりました。」と静子さんはため息をついた。

…トオル君とはお付き合いもしていませんけど…

「雛子さん、お家に帰る気は無いのですか?」と言う問いかけに私が大きく頷くと、

「駆け落ちって事になりますね。
仕方がありません。雛子さんがその方を選んだのですから…。
雛子さんが普通の家庭の奥さんになっていけるよう、
私が協力させていただきます。」と静子さんは決心したように呟く。

…駆け落ちっていつの時代?
でも、静子さんは大真面目な顔だ。


私がトオル君の家の前に立ち止まり、
「事務所兼お世話になっているお家です。」と言うと、

静子さんは「五十嵐」と「influence(インフルエンス)」と書かれた表札の前で足を止め、
古い日本家屋の建物の前で大きなため息をついた。

「雛子さんのお家が資産家だと言うことは?」と静子さんが聞いて、

「トオルさんは知っていますが、他の方は知りません。」と言うと、

「家政婦が来たってことにしないほうが良いですね。
母親がわりの親戚って事にしましょう。」と静子さんはサングラスを外し、帽子を取った。

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