私に恋してくれますか?
「お邪魔いたします。」と玄関で、声をかけて静子さんは家に入っていく。

「雛子の叔母にあたる静子と申します。この度は、…お世話になります。」
と静子さんは頭を下げながら、菓子折(もちろんルピナスの物。)を差し出し、室内に目を走らせる。
お手伝いさんの目だ。
きっと、乱雑に積み上げられた書類や、部屋の隅の埃なんかが映っているに違いない。

「えーと、五十嵐さん。左近さん、桜井さんです。」と静子さんに紹介する。
左近さんと桜井さんは不思議そうにちょっと頭を下げて挨拶し、
トオル君は
「荷物たくさんある?手伝おうか?」とにっこり静子さんに笑いかけ、
左近さんと、一緒にスーツケースを2階に運んでくれた。


「五十嵐さん。」
と静子さんが私の部屋に入って声をかける。左近さんは手を振って1階に降りていき、
五十嵐さんと静子さんと私が部屋に残った。

「五十嵐さんは雛子さんと真剣におつきあいをしているんでしょうか?
雛子さんは普通の家庭で育っていません。
きっと、ご迷惑をおかけすると、思いますし、
考え方もきっと、子供のように幼い部分もあるでしょう。
雛子さんが、今、私と家に戻れば、ちょっとした反抗で済ませることができます。
それでも、一緒に暮らすおつもりですか?」と真面目な顔で五十嵐さんを見つめた。

私の心臓がドキドキと音を立てる。
トオル君はなんて答えるつもりだろう?

五十嵐さんはちっとも慌てず、
「雛子さんは世間知らずな部分もありますが、
心が綺麗な女性だと思っています。
人を悪く言ったり、
相手を疑うこともあまり無いでしょう。
僕はそういう部分が好きだと思っていますし、
大切にしたいと思っています。」と柔らかく微笑んだ。

「五十嵐さんのその言葉を信じていいんですね。
私は普通の暮らしができるようにお手伝いします。
雛子さんをよろしくお願いいたします。」
と静子さんがトオル君に頭を下げたので、私も一緒に頭を下げた。

「もちろん。2人とも大袈裟だな」とくすんとトオル君は笑い、部屋を出て行く。

トオル君は仕事に戻り、
私と、静子さんはトランクを開け、片付けをし、
静子さんはまた来ると言って、トオル君の家を後にした。


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