私に恋してくれますか?
近所の小料理屋「藍(あい)」
大将と女将さんと息子さんで切り盛りしているお店みたいだ。
楽しそうな笑い声と、少し酔った大人がいる店。

チェーンの居酒屋は茜ちゃんに連れて行ってもらった事があるけど、
大人の男の人ばかりがいる居酒屋は始めてだ。
ネクタイを緩めたサラリーマンが多い。
スーツ姿の女の人もパラパラいるけど、
楽しそうに飲んでいて、お酒が好きな大人の人達みたいだ。

私は少し、浮いてるかな。
緊張気味だったけど、トオル君が私の隣にドッカリ座って、
「ピーコ、ビールでいい?」と笑いかけてくれくれたので、
ちょっとホッとする。

「ここ料理は安くて美味いんだよ。」と左近さんが話しかけてくれる。

「雛子ちゃんは今まで何やってたの?」と桜井さんがおしぼりで手を拭きながら聞いてくるので、

「一般事務です。」と言うと、
「英語出来るのになんで、仕事に生かさないの?」
「…人と話すのが苦手で。…」と言うと、なるほどと頷く。

「俺たちと話すのって苦痛?」と左近さん。
「そ、そんなことはありません。
大勢の人がいると、緊張して、うまく話せないだけです。」と慌てて言うと、
「じゃ、ここってちょうど良い人数じゃん。
俺たちとは普通に話してるし…」と桜井さんが笑う。

そういえば…そうか。
昨日、始めて会ったのにあんまり緊張してないかも…

「…そうですね。
ここの雰囲気が、固くないからかもしれません。」

「まあ、チャラいトオルが社長じゃあ、固くなりようがないよ。」と左近さんがくすんと笑うと、

「仕事の時は、チャらくねーし。」と不機嫌な顔でビールを飲みほして、
トオル君はお代わりを頼んだ。

「仕事以外じゃ、チャラいって事だ。
雛子ちゃん、トオルと付き合うのはよく考えたほうがいいぜ。」と桜井さんが笑った。


まあ、そうだよね。
昔、何度かしか会ったこともないのに、
久しぶりに会って、家出をすすめ、
成り行きで自分の家に連れて帰るって
やっぱり、チャラくないと出来ない芸当だ。







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