私に恋してくれますか?
仕事はほどほどにして、夕方になると左近さんはキッチンに立つ。
私は料理の助手。

トオル君は応接ソファーの周りを片付け、
6人座れるように折りたたみの椅子とテーブルを用意し、
テーブルクロスを広げたり、緑と赤の紙皿や、コップを飾り付けた。
それだけで、賑やかなパーティー気分だ。

桜井さんは彼女と待ち合わせ、ケーキと飲み物を買って来てくれる予定で、
沙織さんは仕事を終えて、後から参加だ。

オーブンからチキンや野菜の焼ける香ばしい匂いや、
マッシュルームを使ったクリームスープのいい匂いがしている。
宅配のピザもとどいて、パーティの始まりだ。

「毎年恒例、忘年会を兼ねたホームパーティだよ。楽しんで。
今年もお疲れさまでしたー。明日は半休。」
とトオル君が私に説明しながらグラスをあげて、
パーティが始まった。

桜井さんの彼女は未来(みく)ちゃんという名前で、私より2歳年下。
22歳で明るい茶色のショートカットで
クルリとした瞳の物怖じしない可愛い女の子だ。

トオル君に会った途端に
「五十嵐さんってすっごくかっこいい!」と桜井さんの顔を見て、凹ませていた。

「トオルには雛子ちゃんがいるから。」と桜井さんがもぞもぞ言って

「えー!残念!!」と私にニコニコ笑いかける。
私が曖昧に笑うと、
「ちゃんとトオルさんは自分のだって言わないと、
誰かに取られちゃいますよー!」と頰を膨らます。

「俺がピーコに惚れてんの。」
と急にトオル君がグイッと私の肩を抱いて笑うので、
私は鼓動が跳ね上がる。

あいかわらず、何の前触れもなく
私に手を伸ばすひとだ。

「の、飲み物持ってきますね。」とその場を逃げ出す。

「ピーコ、顔赤い。」とトオル君の笑い声が聞こえる。

「雛子さんって、可愛いー。」とミクちゃんの声に

「だろ。」とトオル君が返事をする声が聞こえた。

急に抱き寄せるのはやめて欲しい。
心臓がばくばくいうんだから…。







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