もう二度と昇らない太陽を探す向日葵

 お兄さんがわらってくれた。それが、私はとても嬉しい。もっと笑って欲しい。もっと、もっと、ずっと、彼には笑っていてほしい。

 大好きな人だから。明日という新しい未来でも、たくさん笑ってもらうんだ。


「夏帆」

「なに?」

 顔を覆っていた両手を下ろした。そして、お兄さんを見ると、お兄さんはベンチから立ち上がり私に手を差し出していた。

 そんなお兄さんの後ろに見える空は、もう半分以上が暗い紺のような色。さっきまでの夕陽とオレンジ色は、殆ど見えなくなっていた。

 いつの間にこんなに時間が経っていたんだろう。

「お兄さんといると、時間を忘れちゃうみたい」

 恐らく、帰ろうという意味で差し出してきたのであろうお兄さんの手をとり、私はゆっくりベンチから立ち上がった。

 お兄さんと一緒に過ごす時間は、とっても早く過ぎる。

 明日から始まる、お兄さんと私が過ごす5年間も、あっという間に過ぎてしまうのかな。

「夏帆といると、時間が早く過ぎる」

 魔法みたい、と言って私の手を強く握ったお兄さんが歩き出した。お兄さんが歩いて行くのは、私の家がある方向だ。

 送ってくれるんだ、と嬉しく思う反面、もう、今日が終わってしまうんだという焦りや絶望感に似た感情が湧く。

 でも、明日は、終わりじゃない。始まりだもんね。

 大丈夫、大丈夫。と、私は自分に言い聞かせるようにしてお兄さんの手を強く握り返した。

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