もう二度と昇らない太陽を探す向日葵
「お兄さん」
「ん? なに?」
「私、幸せになってくるね」
お兄さんの方を向いたまま、一歩、後ろへ下がった。お兄さんは、私の一言にまた更に目を赤くして笑う。
声にならないような声を出し、ただただ必死で何度も頷くお兄さん。私は、そんなお兄さんの姿を瞬きを惜しんで見ていた。
本当に、これで最後。そう思うと、たったの一秒でも彼から目を離したくなんてなかった。
「それじゃあ……」
私が、そう口を開いた。すると、お兄さんが笑顔で大きく口を開いた。
「ねえ、夏帆」
「なーに?」
一歩、二歩、と後ろに下がった私は立ち止まり、両手を後ろに回した。
笑顔、笑顔、笑顔。
自分に呪文をかけるかのように、私は何度も〝笑顔〟という言葉を頭の中で繰り返し、笑顔を保っていた。ただ、笑顔でいる。それだけのことだけれど、私は本当に必死だった。
「また、後で」
お兄さんが、そう言って笑った。
お兄さんのその言葉を聞くと、私の目からはぼろぼろと堪えきれなかった涙があふれ出た。
だけど、今日、初めて自然に口角が上がった。今日一番に、自然と笑うことができた気がした。
「うん!また、後で!」
私は、右手をぐっと挙げた。
その右手を大きく振ったあと、私は180度回転し、景色を変える。
お兄さんに背を向けると、振り返ってしまわないように、ただ前だけを見て走り出した────。