もう二度と昇らない太陽を探す向日葵
肩にかけたスクールバッグの持ち手部分を右手でぎゅっと握りしめ走り続けた。駅前のカフェにやって来ると、そこには、前に会った時と全く変わらないお兄さんの後ろ姿があった。
「お兄さん!」
腰を屈めて何かを探しているような様子のお兄さん。私は、そんなお兄さんの背後に回ると、少し大きな声で名前を呼んだ。
「どうしたの」
お兄さんは、私の存在に気づいていたか何なのか、特に大きなリアクションをとることもなく振り向いた。
「あ……えっと、そういえば私、お兄さんの名前をまだ聞いていなかったなー、なんて思ったんですけど」
「え? それだけの為に来たの?」
お兄さんはそう言うと、私のことを不審な目で見た。
「あ……えっと、あと、年齢とかも聞いてないですし、ほら、前髪を切った仲ですよ? 全く情報を知らないなんておかしいじゃないですか」
私の必死の誤魔化しに、お兄さんは「そうかな」とだけ言った。変わらず不審な目を向けてくるお兄さんに、私はどうするのが正解なのか迷ったけれど、ここはポーカーフェイスを保つ他ない。
「おかしいに決まってます。大体、お兄さんは何を勿体ぶってるんですか。前髪を切ったお礼に名前と生年月日くらい教えてくれたっていいじゃないですか」
本のことをお兄さんに話したって仕方がないし、絶対に信じてなんてもらえないだろう。そう思った私は、本のことは伝えないまま、名前と生年月日を教えてもらえるよう説得をした。
すると、私に不審な目を送り続けていたお兄さんが少しだけ首を傾げたあと、ゆっくり口を開いた。そして。
「……はい、名前と生年月日」
私に、一枚のカードのようなものを差し出してきた。