もう二度と昇らない太陽を探す向日葵

 たくさんの人々が慌ただしく行き交う中で、私だけ、落ちていた一冊の本を片手に立ち止まっていた。

 しばらくきょろきょろと辺りを見渡していたけれど、結局、本の持ち主であろう人は見つからなかった。


「ただいま」

 持ち主の見つからない本を片手に、私は、誰もいないアパートの一室へと帰ってきた。

 私の発した『ただいま』に対する返事は無い。それを発した私自身も、返事が返ってこないことくらいは分かっていたけれど、小さな頃からずっとそうだったせいか、誰もいないということを分かっていても、つい言ってしまう。最早これは私の癖のようなものになっていた。

 短く狭い廊下を歩いていき、リビングへと入った。フローリングに直接置かれた、ちょうど四人までなら食卓を囲えるような四角く茶色いテーブル。そこに、ラップがかけられたおにぎりとおかず、それからメモのような紙が置かれていた。

「夏帆(カホ)、おかえり。今日も帰りが遅くなりそうなので、これを食べてね。ごめんね。お母さんより」

 ご飯とともに置かれていたメモを視線の高さまで持ち上げ、書かれている内容を読み上げた。


 小学校低学年の頃、私のお父さんはガンに侵されこの世から去ってしまった。

 父のガンの治療は、3年程かかっていたと思う。だけど、お母さんは、お父さんから離れる事なく、ずっと、最後の最後までお父さんの側にいた。悲しい顔も、辛い顔も、たったの一度だって見せずにお父さんのことを愛し続けていた。

 今年、私は高校二年生になった。お父さんが亡くなってしまった小学校の頃から現在まで、お母さんは、私の事を女手一つで育ててくれている。

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