もう二度と昇らない太陽を探す向日葵
私の言葉で目を丸くしたお兄さんを見た私は、我ながら随分大胆な言い方をしたなと後悔した。だけど、お兄さんについて知りたいというのは事実だった。確かに、あの本の事を知るためにもお兄さんの事を知るというのは必要不可欠なことだと思う。だけど、理由はそれだけじゃなかった。私が。私自身が、彼を知りたいと思ったんだ。
「はは。君は、本当に真っ直ぐだね」
「え?」
「こんな風に真っ直ぐ知りたいなんて言われたら、教えるしかないか」
柔らかく口角を上げたお兄さんが、テーブルの上に半分以上を飲み終えたホワイトモカを置いた。
「俺はね、何でもないどこにでもいるような大学生だよ。でも、高校生の頃までは周りの子よりはちょっと……いや、結構暗い男の子だったかな」
「暗い、男の子」
聞き覚えのあるワードに、私の心臓はどくんとひとつ、脈を打った。
「そう。ただの暗い男の子。だけど、ある一人の女の子に出会って俺の人生は180度変わった」
また、どくんと跳ねた心臓。懐かしさの混じった優しい表情を浮かべるお兄さんに、私は意を決して口を開いた。
「お兄さん」
「なに?」
「その女の子と出会ったのって、いつ頃のことですか?」
あの本の中に登場していた〝転校生〟とお兄さん。二人は、本当に同一人物なのか。それがきっと、この答えで一致するに違いない。
「高校二年生の夏。ちょうど今くらいの時期かな。夏休みが明けてすぐの8月29日だったと思う」