もう二度と昇らない太陽を探す向日葵

 私は、高鳴る胸の鼓動を感じながら、お兄さんの返事を待っていた。

 瞼を少しだけ降ろしたお兄さんが答えた、彼の人生を変えたという女の子と出会った日。私の心臓は、その日付にまた大きく脈を打った。

 2016年8月29日。それは、あの本にも書かれていた、転校生がやって来たという日。


 またひとつ、繋がった。

 間違いない。絶対に、このお兄さんがあの本に出てきた〝転校生〟で、私が〝好きになる人〟だ。


「向日葵みたいな女の子だった」

 確信を得た私は、ただ黙ってお兄さんのことを見ていた。すると、伏し目がちだった彼の瞼が少ずつ上がり、優しい声のトーンでそう発せられた。

「向日葵?」

「そう、向日葵。彼女は、こんな俺にいつも真っ直ぐ向かってきてくれた。純粋で、真っ直ぐで、自分の感情に素直な女の子だった。ほら、向日葵って太陽の方をいつも見てるでしょ? だから、向日葵みたいだなっていつも思ってた」

 愛おしそうな瞳をするお兄さんが、私を見て笑った。

 これまでに経験した事がないくらい大きく跳ねた私の胸の鼓動は、痛い程苦しい。

 ああ、そうか。そうなんだ。

 私は、少しだけ未来の私がどうしてこのお兄さんを好きになったのか分かったような気がした。

「それなら、お兄さんは太陽だね。その女の子にとって、お兄さんは、いつも視線の先にいる太陽じゃないかな」

 まだ、今の私はお兄さんのことを何も知らない。何も知らないけれど、お兄さんがとても優しくて、未来の私にとっても大切な存在だという事は分かっている。

 少しだけ未来の私にとって、このお兄さんは、きっと〝太陽〟になるんだ。

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