もう二度と昇らない太陽を探す向日葵
3.「今世紀一番に残酷で、一番に美しい運命」



「夏帆、おいで」

「あ、お兄さん、ちょっと待って!」

 相変わらずの眩しい太陽が私たちを照りつけている、8月12日。私は、お兄さんとある場所に来ていた。

「スカートなんて履いてくるからでしょ。ほら、早く」

 私に向けて右手を伸ばしたお兄さんと、人気の少ない道を進んでいく私。少しだけ凸凹とした坂道に差し掛かると、私はバランスが保てず転びそうになりながら何とか進んでいた。

 私とお兄さんは、殆ど毎日こうして会っていた。あっという間に仲良くなって、お兄さんは私のことを「夏帆」と下の名前で呼ぶようにもなった。

 私とお兄さんは、大体いつも公園や湖や海、それからいつものカフェのテラス席で会う。それは、お兄さんが、人のたくさんいる場所へ行くのを極端に嫌がったから。あのカフェで会うときだって、どうしてかテラス席じゃないと嫌だと言って聞かなかった。この真夏に太陽が照りつけるテラス席で食事をしたがるなんて、もちろんいない。どうやらお兄さんは、少しだけ変わり者らしい。

「こんなに歩かせたお兄さんのせいだよ。それに、スカートだって……全部、お兄さんのせいだもん」

 長い距離を歩き続けること自体は、本当は苦でもなんでもなかった。お兄さんと一緒だし、歩き終えて見える景色を想像すればへっちゃらだった。お兄さんのせいだなんて微塵も思っていなかったけれど、お兄さんに会うために何十分も迷って決めた洋服の事をそんな風に言われてしまったことが少し悔しかったのだ。

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