もう二度と昇らない太陽を探す向日葵

 しかし、彼の新たな心臓となるドナーは未だ見つかっておらず、目立たなかった心筋症の症状も今年の初めあたりから酷くなってきたと説明された。

 ああ、そうか。それが原因で彼は講義を休んでいたのか。と、私はこの時初めて彼が講義を休み続けていた理由を理解した。

「症状は、確実に酷くなってる。多分、長くて5年くらいじゃないかな」

 信じられなかった。そう、平然と言い放つ彼も、この現実も。すべて、夢なんじゃないかと当時の私は思っていた。だけど、さっき見た彼の涙がそうではないんだと、何度も私に現実を突きつけてきた。

 私は、どうしたらいいか分からなかった。彼にどう言葉をかけるのが正解なのか、考えたって分かるはずもなかった。

 あまりに突然のことで、信じられなくて、声も涙も出ない。ただただ、向かい側に立っている彼の両手をぎゅっと掴み続けた。

「これから我儘言うから。最後の我儘だからさ、ちゃんと、これだけは聞いて」

 そう言って私の手を握り返した彼は、笑っていた。

 どうして笑っていられるのだろう。この時の彼を見て、私はそう思った。でも、この時だけじゃない。出会ってからこの日のこの瞬間まで、彼はいつも私の隣で笑っていた。どうして彼はこんなにも優しく、強いのか。

 彼が難病で苦しんでいることを知った私は、出会ってからずっと笑っていた彼を思い返しては、ひどく胸が苦しくなった。

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