もう二度と昇らない太陽を探す向日葵
「お兄さん!」
駅前のベンチに腰をかけていたお兄さんを見つけた私は、更にスピードを上げてお兄さんの元へと向かった。
「夏帆」
振り向いたお兄さんの笑顔を見て安心した私は、乱れた息を整えると真っ直ぐお兄さんを見た。
「そんなに慌ててどうしたの」
「ねえ、お兄さん、死んじゃうの? 死なないよね? 病気なんかじゃないよね⁉︎」
そう言って、私は周りの目も構わず大きな声を出し、お兄さんの服の袖をぎゅっと強く掴んだ。
今にも泣き出してしまいそうで、唇を強く噛みながらしばらく返事を待ったけれど、お兄さんは何も答えてはくれない。私は、掴んでいた服の袖から手を離すと、両手で拳をつくりお兄さんの胸元を叩いた。
「ねえ、お兄さん!ねえ‼︎」
嘘だ。全部、嘘に決まってる。
今思えば、お兄さんの年齢と生年月日だって可笑しいし、転校生の名前は〝シゲル〟くんで、お兄さんの名前は〝蒼(アオイ)〟で、名前だって違うんだ。それに、著者の名前だって、私の名前でも知り合いの名前でもなんでもない。
違う。違う。あれが私の未来だなんて、ただの私の勘違いのはず。だから、早く、違うよって言って笑って。お兄さん。
「……夏帆、どうしたの?」
あの本の内容が私の未来なんかではないと願う私の頭上から、やっと、お兄さんの優しい声が降ってきた。
「お兄さん、違うよね? お兄さんは病気なんかじゃないよね? お兄さんは、今、大学生で、名前は陽本蒼(ヒノモトアオイ)なんだよね?」
ぎゅっと、お兄さんが着ているTシャツの胸元部分を掴んだ。そのまま顔を上げてお兄さんを見ると、お兄さんはいつもと変わらない優しい表情をしていた。