もう二度と昇らない太陽を探す向日葵

 お兄さんは、この世に存在していないはずの存在。命を絶ったはずの、あの本の中に描かれていた〝彼〟だということ。

「でも、それじゃあ今、この世には二人のお兄さん……二人の〝陽本蒼(ヒノモトシゲル)〟が存在しているっていうこと?」

 私がそう聞くと、お兄さんは少しだけおかしそうに笑った。

「うん。まあ、そういうことになるのかな。でも、俺は死んでるから。普通の人には見えないよ」

「普通の人には見えてないの? でも、私には見えてる」

「うん。もともとそういうものが見える人や俺に対して強い想いを抱いてる人や、これからそういう想いを抱くことになる人には見えるみたい。少し前に一度だけ、母さんとは目が合った」

 すぐに隠れたけど、と言ったお兄さんは、なんだかとても嬉しそうだった。

「そっか」

「さっきも言ったけど、死んだはずの俺がこうしてこの世界をフラフラしているのは、まだ成仏ができていないから。まだ、この世界に未練がタラタラであの世に行けないからなんだ」

 格好悪いね、と言って笑ったお兄さんに私は「そんなことない」と言って首を振った。するとお兄さんは、また口を開く。そして。

「俺が、この時代の夏帆に会いに来たのは、未来を変えるため。夏帆に、幸せな道を選んでもらうためにここに来たんだよ」

< 75 / 125 >

この作品をシェア

pagetop