もう二度と昇らない太陽を探す向日葵


「いいなぁ」

 私は、お兄さんとミケタロウの様子をしばらく伺っていた。すると、私の口からは勝手に心中の言葉が漏れていた。

 これは、これでもかというくらいにミケタロウに懐かれているお兄さんに対しての言葉か。それとも、お兄さんに優しい表情と指先で愛でられるミケタロウに対してか。

 自分でもよく分からない。そんな小さな嫉妬のような感情を言葉という形で漏らした私に、お兄さんは笑って「どっちが?」と問いかけてきた。

「え?」

「今の『いいなぁ』は、俺に対して? それとも、ミケタロウに対して?」

 ちらり、とお兄さんの方を見る。お兄さんは、ミケタロウに視線を向けたまま、わしゃわしゃと撫で続けている。

「……どっちも、かな」

 ぼそり、と小さな声で答えた。恥ずかしくて、聞こえなければそれでもいいと思って発した言葉。それを、お兄さんはしっかりと拾ったのか、ミケタロウを優しく抱き上げると私の方を見た。

「おいで、夏帆」

 隣に来い、とでも言うように視線で指示をしたお兄さんに従い、私はしゃがんだままでお兄さんの横まで移動した。

 お兄さんは、右手でミケタロウを抱き上げ、左手で私の後頭部に手を回し、私の髪をわしゃわしゃと撫でながら額を私に近づけた。

「ほーら、夏帆もミケタロウに負けないくらい可愛い」

 すぐ目の前にあるお兄さんの顔。額と額がくっついたその状態に、私の心臓の脈は激しく波を打った。

 彼は、そんな私の気を知らないで私を撫で続けながら笑う。私は、恥ずかしさと嬉しさから目を合わせることができなくて、ぎゅっと目を瞑った。

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