もう二度と昇らない太陽を探す向日葵
「記憶は……? 私が、お兄さんと過ごした記憶はどうなるの?」
声が震えた。怖かった。ここまでのお兄さんと過ごした全てがなくなると言われてしまったら。そう思うと、私は怖くなった。
そう思ってしまう程に、今を生きる私にとっても、この目の前にいるお兄さんは大切な存在となっていた。
お願いだから、記憶だけは。記憶だけは、残していてほしい。そう切に願った。
────しかし。
「記憶も、きっと残らない。あの本を読んだことも、俺のことも。俺に関わる全てのことが消えると思う」
お兄さんは、お兄さんに関わる全てのことが私の中から消えると言って、視線を落とした。
「消えちゃうんだ」
目頭が熱くなった。だけど、泣きはしなかった。
「でも、また、新しく記憶を作っていくっていう事だよね」
「うん」
「また、お兄さんと幸せな時間を刻んでいくってことだよね」
「うん」
終わりじゃない。お兄さんといた記憶が消えてしまっても、終わりじゃない。終わりではなくて、始まりだ。
大丈夫。私は、これからこの世に生きている高校生のお兄さんと出会うんだよね。
それは、悲しい別れなんかじゃない。
だけど。ううん。だからこそ、私は、未来を生きたお兄さんと、最後まで残り僅かの記憶を刻んでいこう。