もう二度と昇らない太陽を探す向日葵

「お兄さん、本当に私が書いた本ちゃんと読んだ?」

 お兄さんがこちらを見て、目を丸くした。その後、こくりと一度頷いて「ちゃんと読んだよ」と答えた。

「それなら、分かるでしょ? お兄さんは、私にとってかけがえのない幸せな日々をくれたの。たくさんの思い出と、色んな感情をくれた。私は、お兄さんと生きることが幸せなんだよ。それは、今の私も、未来の私も変わらない。お兄さんは、数えきれないくらい、たくさんのことを私に残してくれた。だから、私は本を書いたんだよ。お兄さんの持ってるその本が、お兄さんと生きたことでたくさんのものを得た証拠だよ」

 そうでしょ? と付け足して、私は口角を上げた。

 悲しそうな顔をしていたお兄さんに、いつものように笑って欲しかった。だから、お兄さんに笑いかけた。

「そうだね。本にも、ちゃんと書いてあった。確かに〝苦しい〟とか〝つらい〟とも書いてあったけど、その分……いや、それ以上に、〝幸せ〟だったと書いてくれてた。それに、今、夏帆自身もそうだと言ってくれるなら、そうなのかもしれないね」

 お兄さんがベンチに腰を掛けたままで空を見上げた。そして、「ああ、まだ出会っていない頃の夏帆にも助けられちゃったな。情けない」と言うと、口角を上げて笑った。


 私はまるで、消えてしまわないように。胸に焼き付けるように。綺麗に笑っているお兄さんの横顔を見ていた。



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