もう二度と昇らない太陽を探す向日葵

「あの人ごみの中からお兄さんを見つけて、こうして出会うキッカケを作ることができたのって、愛のパワーのおかげなのかな」

 ───ああ、未来のお兄さんと出会えてよかったな。

 そう呟くように付け足して言った私は、単に思った言葉をそのまま口に出しただけだった。

 だけど、隣のお兄さんを見てみると、顔をほんのり赤くして俯いていた。そんなお兄さんの表情を見て、よく考えてみると、なんだか私はとんでもなく恥ずかしい事を言ったように思えてきて熱くなった。

 急に恥ずかしくなって、私は熱く火照った顔を両手で仰いだ。

 熱が収まり冷静になると、やっぱり〝愛のパワー〟なんてバカみたいな事を言ってしまったな、と思い、私は少しだけ反省した。


「本当、言ってくれるなあ」

 どうしてくれんの、と言って笑ったお兄さんに、私もまた照れながら笑った。


「だけど、〝言いたいと思ったことは、そう思った時に伝えないと〟。でしょ?」

 このお気に入りのボブヘアが似合うと言ってくれた後、そうお兄さんが言っていた。

 お兄さんは、瞳を三日月型にして笑うと「そうだった」と言って私の髪をくしゃっと優しく撫でた。

 その後も私とお兄さんは、段々と落ちていく夕陽を眺めながら他愛もない話をし続けていた。


「お兄さん、何が食べたい?」

「ケーキ。すっごい甘いやつ」

「あ。チョコレートケーキとか?」

「ううん。違う。ショートケーキ。何度も言うけど、すっごい甘いやつね」


 している会話は、こんなものばかり。何が食べたいとか、どこで食べる何が美味しいとか、どこに行きたいとか、何をしたいとか、明日は何をしようか、とか。

 お兄さんとそうしている時間が本当に幸せで、幸せで。私は、数日後の未来にいる私の心に、ほんの少しだけでも、この瞬間に感じた〝幸せ〟だという感情が残るようにと願い続けていた。


< 90 / 125 >

この作品をシェア

pagetop