強引専務の甘い手ほどき
給湯室で大きなサイフォンを使い、コーヒーを淹れる。
3つ。
ってお客様が来るんだろうか。と思いながらカップを用意して、
専務室に向かう。
ドア越しに声をかけると、少しして、専務がドアを開けた。
切れ長の黒い瞳と目があう。
私は少し顔を赤くして、トレイを持って、
「失礼します。」と室内に入った。

「ここに置いて。」と応接セットのソファーに石神さんが書類を広げている。
「はい。」と返事をして、応接セットに進むと、
テーブルには茶色の丸いお菓子が箱に入って置いてあった。
マカロン…に見えるけど。茶色のグラデーション。
カラフルじゃないマカロンってどうなんだろう。
と少し不思議に思いながら、
「失礼しました。」とクルリと後ろを向くと、
目の前の白い壁に顔をドンとぶつけた。
「おまえ、きちんと後ろを確認しろ。」とぶつかった壁が文句を言う。
専務だ。
ハッとすると、口紅がシャツに付いている。
「すすす、スミマセン!!」と大慌てで体を離すと、
またしてもヒールのせいでよろける。
「あぶねー。」
ぐいっと腕を掴まれ、引き寄せられると、また、シャツに顔がぶつかった。
もう、恥ずかしすぎて動けない。


ププッと吹き出したあと、大声で石神さんが笑い出す。
「いいねえ。西島さん。キサラギぃほっておけない感じ。だな。」

「おまえ、アホなの。」
と言いながら、専務は私の手を掴んでソファーに座らせる。

私はトレイを抱きしめたまま、
「すす、スミマセン。シャツの弁償を…」と言うと、
「替えはあるから気にしないで。」と石神さんが言って、

「お茶にしようか。」と私に微笑みかけた。




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