強引専務の甘い手ほどき
「カエデ、俺の恋人になって欲しい。」とコーヒーを飲み終わると、専務は私を見つめる。
「…私は…。」と私は言葉を切る。

気になっていたことを聞かなければ返事は出来ない。

「専務。専務は私がケーキの味がわかるから、
そばに置きたいんじゃないですか?」と専務の顔を見る。

「カエデ、キサラギって呼んで。
もちろん、ケーキの味がわかるっていうのはカエデの一部だ。
きっと、知らないで一緒に働いてても、
きっと、どんどん惹かれていってたし、
他のケーキの味がわかるってヤツが秘書室に来たら
付き合ってほしいとは思わなかっただろう。

入社してから恋人は作らなかった。
忙しかったし、この会社を継ぐのに
やらなければいけない事がたくさんあった、
オンナの事を考える余裕なんてないと思ったし、
その場かぎりの関係でいいとおもった
恋人を作るのはもっと先の事だって、
営業にいた時より、今の方が更に忙しいのに、
カエデが好きになった。

いつもカエデのことを考えてる。
拓也に聞くといいよ。
どれだけ俺がカエデに夢中か。
拓也も
もう、カエデがそばにいてくれた方が
俺が落ち着くって思ったみたいだ。

もう、我慢できないから付き合いたい。
って言ったら、今日は邪魔しに来なかったし。」と笑った。


そうなんだ。
石神さんもわかってたって事。

私は深く溜息をつく。
「好きになってはいけない人と思っていました。
仕事に取り組む真面目な姿も、時折見せる屈託のない笑顔も
見ておくだけにしようと思っていました。
それでも、
いつの間にかキサラギさんを好きになっていました。」
私はそう言って、コーヒーの上に
パタパタと涙を落とした。

いつの間にか好きになってた。
真っ直ぐ見つめる眼差しも。
その笑顔も。

今は涙で見えないけど…


< 49 / 122 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop