強引専務の甘い手ほどき
慌てて前に向き直ると、壁のように立って、私を見下ろす切れ長の瞳。
デカイ。広い肩。180センチ…それ以上にありそうか。
「あ、専務、おはようございます。」
と私の後ろで吉野さんはニコニコ頭を下げる。
専務?
「おっ、おはようございます。
きっ、今日から配属になった西島です。」と慌てて頭を下げると、
「ふーん。俺の代わりにケーキ食べるヤツか。」
とプイと横を向いて専務室に入っていく。
はい?
「コーヒー。」ともう1度専務が振り返って言ったので、
「はい。」と返事をすると、
「西島さん、コーヒーの淹れ方知ってる?
本店にいたんだよね?」と聞くので、頷くと、
「よかった〜。私達の代わりにコーヒー淹れてくれる人がいて。」
と吉野さんがホッとした顔をする。
「コーヒーって、淹れるの難しいですか?」と不安になって私が聞くと、
「私も、上野さんも紅茶や、お茶は上手く淹れられるんだけど、
コーヒーは専務の好みに淹れられなくって。
他の役員はコーヒーメーカーでいいんだけど。
専務はねえ、サイフォンなの。」と言った。

サイフォン
へえ。

吉野さんは私を広い給湯室に連れて行き、
棚から、コーヒー豆と、道具を取り出し、
ヨロシク。
と出て行ってしまった。
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