乙女野獣と毒舌天使(おまけ完結)
ふたりが求めた温もり
週末、杏樹は、久しぶりにオフィススタイルに身を包んでいた。
昨日、ふいに携帯電話が鳴り、表示を見ると上司からであった。
さすがに出ないわけにはいかないと思い、出たところ、明日ラポールの担当者が話があると言う内容であったから、今、オフィススタイルなわけだが…。
なんとも不可解な電話であったと、思い返す。
『ラポールの担当者が内密にあって話がしたいと言ってるんだけど、難波の手前もあるし、会社の人間には内緒で頼むよ。明日、11時に料亭ーかえでーだからな。本当に内密だからな。』
そう言われたのを思い出し、ため息をつく。
「あの担当者、苦手なんだよな…。」
バックと書類片手に、部屋を出ると入り口で、雅輝と出くわす。
「出掛けるの?」
「はい、例の企画の担当者と会うことになってて。」
「…企画の?」
「はい、内密みたいなので、聞かなかったことにしてくださいね?」
「…ああ。分かった。…あっ杏樹、これ。御守り変わりに。」
シュッと、ぬいぐるみのキーホルダーを杏樹目掛けて投げてきた。
「あっかわいい…。」
「かわいいだろ?それ、防犯ブザーだから。念のためね。」
先日のことがあり、気にしてくれてるようで、"くれぐれも気を付けてね!"と、念押しされた。
雅輝に渡されたぬいぐるみのキーホルダーを、かばんにぶら下げタクシーを降り、指定された場所に立つと、場所を間違えたんじゃないかと、目を疑った。
竹と緑に囲まれた、純和風の料亭。外からは余り中が見えず、ここだけ歴史の中の建物の様な異様な雰囲気。
入るのを躊躇していると、年配の女性から声をかけられた。
「立花様でしょうか?お待ちしておりました。こちらへどうぞ。」
淡々と言われ、何故、自分が立花だと分かったんだろうかと言う疑問は、浮かぶことなく、ただひたすら案内されるがまま従った。