乙女野獣と毒舌天使(おまけ完結)
ふたりと令嬢
オフィスRーラポールーで杏樹が働き初めて、2週間程過ぎた。
新しい環境にも慣れ、新しい出会いもあり、楽しく仕事をしていた。
ウェディング企画室のメンバーとは和気あいあい出来、前の会社のように自分を押し殺して仕事をする必要はなく、杏樹は、自分を出しながら仕事をすることが出来た。
メンバーは、どうやら優れた才能を持つ人ばかりのようで、会議もスムーズ、必要な書類を言うとすぐに出てくる、そんな、仕事をしてくれる人材ばかりだ。
中でも杏樹が驚いたのは、雅輝の仕事ぶりだ。
午前中に提出した書類は、目を通して修正箇所を書き込み、その日の3時の休憩後には必ず返ってくる。
携帯と固定電話(内線)を両方に持ち、日本語、外国語を使い分け、指示も的確。
杏樹が知っている無精髭に髪の毛チョンマゲ、服を着崩れした雅輝ではない。ここにいるのは、仕事の出来る男だ。
逆に雅輝も杏樹の仕事ぶりには驚かされる。
仕事は早くて的確、言う前にさっと何でもしてくれる。
雅輝が、煮詰まると休憩を促したり、イライラすると話を別の方に持って行ったり、細かい気配りが出来、長年パートナーだと言わんばかりの阿吽の呼吸がとれる。
「はい、休憩しましょう。ボス。」
ここでは杏樹は雅輝のことをみんなと同じように"ボス"と呼ぶ。雅輝は、初日から"杏樹"と呼んでるが、誰も触れないからそのまま呼んでいる。
初めは各自休憩をとっていたのだが、なずなと杏樹が休憩の度に美味しそうなお茶とお菓子で雑談していたのを男性陣も羨ましがってたみたいで、声をかけると、すぐに参加してくれるようになり、中々休憩しない雅輝に杏樹が声をかけ、10時半と3時は小休憩の時間になった。
「ボス、また、髭さわってますよ?」
杏樹に言われるまで自分で気が付かなかったがどうやら、イライラするとつい髭を触る癖がある、雅輝は、先程の電話を思いだし、ふと、髭を触ったようであった。
『結城です。中々お電話下さらないから…こちらからお電話致しました。副社長就任おめでとうございます。』
『すみません、仕事が山詰みで、手短に用件をお願いします。』
『ふたりきりで副社長就任のお祝いをしましょう!ホテルのラグジュアリースイートお取りしますから、お部屋でゆっくり。ねっ?いいでしょう、連条さん?』
『私の副社長就任はあなたには全く関係ないことなので、お祝いはけっこうです。では。』
ーガチャー
まさか、会社まで連絡してくるとは思わなかったが、内線をたまたま取ったのが自分で良かったと、雅輝は、胸を撫で下ろし杏樹をみた。
あんなして誘ってくれるのが杏樹ならすぐに行くのにと、想っていると杏樹と目が合い、雅輝は目をそらすのは変だと思い、とっさに微笑む。
そんな雅輝をみんなは眺めていた。
雅輝は、自分が杏樹にどれだけ優しい表情をしているか知らない。そして、杏樹に対する雅輝の気持ちがばれてることも知らない。
杏樹は、雅輝に微笑みかいし、おやつのお煎餅を食べた。