乙女野獣と毒舌天使(おまけ完結)
ふたりの幸せな週末
翌日、杏樹は何かの温もりに包まれている感覚に目を覚ます。いつも抱き締めている、ウサギのぬいぐるみとは違う感触のものと気がついた時には、うつらうつらしていた目もはっきりと、覚醒する。
(…えっ、抱き締め…られてる?)
覚醒したものの、誰かの腕枕に頭を乗せ、誰かに抱き締められるように寝ており、自分の胸を見るように杏樹は下を向いているため、顔をあげて、抱き締めている相手を確認する勇気はなかった。
でも、この微かなグレープフルーツのような香りは知ってる。雅輝のものに間違いない。それでも、自分の状況が飲み込めない…さらには昨日の記憶が曖昧過ぎて、杏樹は精一杯考える。
(顔…確認しても…いいかな?…嫌、その前に、私、何もしてないよね…?服、着てるし。)
寝起きであまり働かない頭で考え、一先ず服を来ていることに安堵する。だが、この抱き締められている状況が理解出来ない。昨日、自分の気持ちが好きなんだと気がついたのに、こんな状況に陥り、頭が冴えて来ると嬉しいのか恥ずかしいのか分からず、結局は、何故、雅輝が抱き締めているのかという思考に陥る。
意を決して顔をあげると、色気のある寝顔が瞳に映った。
最近はあまり見ていなかった無造作な髪の毛の姿に、何故かホッとする。抱き締められた手に力が入り、杏樹の前に、綺麗な鎖骨が現れる。自分の手をどうしていいか分からず胸の前でぎゅっと自分の手を握りしめてしまう。
雅輝の体温を感じると、杏樹は目を瞑り、今の状況を整理するのを諦め、雅輝に抱き締めている嬉しい状況を受け入れることにした。そうしている内に、また、杏樹は眠りについてしまった。
雅輝がちゃんと眠りについたのは、3時くらいだった。
理性と戦いながら、アトリエの柱時計が3時の鐘を鳴ったのをうっすらと覚えている。
「雅輝さ~ん!お風呂入りたい~!」
「杏樹、酔ってるんだから、朝入ったら?」
「雅樹さ~ん!暑い~!脱いじゃえ!!」
「ちょっ、ちょっと、杏樹!!」
自分の部屋に行き着つ前に、雅輝の部屋の前で服を脱ぎだし、慌てた雅輝は、とっさに自分の部屋に引っ張り混んだ。引っ張り混んだものの、脱ぐことはやめないため、近くにあったボタンシャツを杏樹に渡して、着るように促した。だがそれをすぐに後悔した。
「雅輝さ~ん。これ、短くないですか?」
悶々としていた雅輝は、何度目かの杏樹の声に反応し振り返った時に、真っ赤になって杏樹から目を背けた。
シャツ1枚の姿の杏樹がまとめていた髪の毛をほどき、シャツの裾を下に引っ張る姿が視界の隅っこにチラチラ見え隠れする。
脱いだ衣類は床に畳んでおいてあり、どんどん雅輝と距離を縮めてくる杏樹はついに、立っている雅輝のそばまで歩みより、抱きついたと思ったら、小さな寝息を立てたのだ。