乙女野獣と毒舌天使(おまけ完結)
二人に忍び寄る影
ー結城家ー
「お父様、何をなさるつもり?」
「あやめは黙って、悲愴感を漂わせていれば良い。」
白愁先生との会食の後、書斎に籠りパソコンやらファイルやらをひっぱりだし何かをしていたことを、あやめは不信に思っていた。
かと思うと連条社長に連絡を入れ、屋敷に呼びつけたのだ。
あやめは意味が分からず、かかわり合わない方が身のためだと、部屋に向かおうとするところを、呼びとめられたのだ。
ただでさえ、杏樹に対してイライラ、ムカムカしており、今は、父親とゆっくりラポールの話をする気分ではなかった。
あの白愁先生に振り袖を作ってもらったと聞いた時、羨ましかった。滅多に振り袖を作る人じゃないし、あんな楽しそうに笑う先生を、今まで見たことがなかったからだ。
「あやめ。」
「あっ、ごめんなさい。ぼーとしちゃって。」
「今から連条社長が来るから。」
「えっ今から?」
「あぁ、追い風が吹いてるって言っただろ?私は、欲しいものは何でも手に入れる、なっ、あやめ。」
不気味に笑う父に、ゾクッとさせられながら、あやめは静かに笑い帰した。
暫くし、連条社長がやってきた。呼びつけられ不快な顔をしながらも、二人と対峙する。
「連条社長。久しぶりですね。考えてもらえましたか?」
「結城さん、いくら昔の約束と言え、あれは私たちが交わしたもので、子どもたちには関係ない、雅輝にはやはり愛している人と一緒になって貰いたい。」
あやめは、二人の話が分からず、耳を凝らして内容を理解しようとする。
(約束?何のことだろう…。)
口には出せないため、心の中で呟き、父の動向を探る。
「そうですか…。では、その彼とは、いえあやめの父とは連絡とれましたか?」
(………!!私の父……?取れずはずない、だって私が引き取られた時に、すでに死んでるのだから。)
あやめは、自分が施設に入る理由が両親の死だったと、幼心に理解していた。なのに、父は何を言っているのだろうと膝の上の手を握りしめた。
「それはどういうことでしょうか?」
「連絡を取れないでしょう?」
あやめの父に覗きこまれるように聞かれ、連条社長は、言葉につまる。
確かに何回連絡しても、留守番電話になり繋がらず、メッセージを入れても返って来ず、あやめの事や株の事を聞きたくても聞けずにいたのだ。