乙女野獣と毒舌天使(おまけ完結)
二人と3日目の悲劇
雅輝は、目を覚まさない、社長でもある父の手を握りしめ、無気力な表情をしていた。
今日は、約束の3日目だ。夕方までにどうするか考えないといけない。
あれから、杏樹と話をしたが話してはくれなかった。
私じゃない、なら、あのネックレスはどう説明するのかと聞いても、まだ、話せないの一点張りで、いつ話してくれるのか、いつまでも話さないつもりなのか不安と不信が渦巻いていた。
「……親父。」
返って来ない返事をいつまでも待ち続ける。
手術をしないで大丈夫な状態なのに、3日たっても目を覚まさない。
時計に目をやると、アトリエに行く時間だ。久しぶりにアトリエに行くのに、久しぶりに杏樹に会うのにこんなに心が弾まないのは初めてだ。
雅輝は重い足どりで、病院を出た。
杏樹は、アトリエの自分の部屋で、雅輝から貰ったうさぎのぬいぐるみを抱き、今か今かと雅輝が来るのを待っていた。
手を振り払われてから、二人で会うのは久しぶりで、拒絶されたことを思いだし、いつもなら二人で会うときはドキドキしていたのに、今日のドキドキはいつもとは違う。
好きな人から拒絶されることが、こんなにも切なく辛いことだと思い知らされ、恋愛初心者の杏樹は、初めて窮地にたたされた。仕事の失敗とかは非じゃないほどだ。
「どうすれば……。」
ぬいぐるみを抱き締める手に力が入る。
どれくらいそうしていただろうか。アトリエの扉が開いて、杏樹の部屋のドアが開かれる。
「杏樹。」
「雅輝さん…。」
暫く二人で見つめ会う形をとるが、恋い焦がれていた相手と会うと言うのに、お互いを見つめる目は切なさに揺れている。
「杏樹…。もう一度聴く、あの動画はなんだ。」
「!!……。」
徐々に距離を詰められ、発された言葉は、久しぶりでも、ただいまでもなかった。杏樹はそれが悲しかった。
「あの動画は。」
「だから、私じゃないって!!」
つい声を荒げた杏樹は、はっと口をつぐんだ。
「杏樹、答えてくれ。あの男は誰だ?あの男に、その大事にしているネックレスを貰ったのか?」
「……それは、……まだ、言えない…。あと、少し、あと、少しだけ、待って。ちゃんと話すから!!」
「もう、待てないんだよ!」
近くの壁をドンっと叩かれ、その初めての行動に杏樹は震えあがった。こんなイライラした雅輝を見たことはなく、穏やかな人が怒ると怖いのは本当だと、どこかで冷静に思ってしまう杏樹だった。
目の前の人物が雅輝なのに、どこか他人を見るような杏樹の視線に雅輝はさらに、苛立った。