俺様御曹司による地味子の正しい口説き方

1日休みをはさんでしっかり頭を切り替えた。
一緒に過ごせなくてもマメに彼は連絡をくれた。『おはよう』であったり『暇』だったり。そのたわいもないつぶやきのような会話が楽しかった。
そうか。
付き合うってことは、そういう何気ない会話や空気、時間を共有するってことなのかもしれない。

なんとなく自分の中のお付き合いのイメージが固まって、嬉しくなった。

いつものように誰よりも早く出勤して夏真っ盛りの熱い日差しを眺める。これからの日々に胸をわくわくしながら給湯室で朝の準備を終えて、フロアへ戻ろうとした私を桃山さんが呼び止めた。


彼女の口から出てきた言葉はその幸せいっぱいだった気持ちをペチャンコに潰してしまう事で、初めての恋だった私にはどうすることも出来なかった。




「小早川君、御婚約されたみたいですね。もしかして笠原さんですか?おめでとうございます」



にやりと楽しそうに笑うその顔は、相手が私ではないと知っていて、だけど何を言われているのか私には分からなかった。
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