俺様御曹司による地味子の正しい口説き方
背中越しに聞こえるその声にどんな反応を示していいか分からずに、ただひたすらパソコンの画面を見つめていた。
なんとなく周りからも視線を感じ、小声のようなこれ見よがしのような会話も聞こえる。
「小早川君って、笠原さんと付き合ってなかった?」
「本気なわけないじゃん」
「ま、勘違いって事よね」
「あはは。それって痛すぎ」
同情すらもない攻撃的な会話にため息しかでない。
桃山さんからのお祝いの言葉に彼が動揺したのか、隠そうとしたのか、背中を向けている私は彼の表情で判断することも出来なかったけど、彼は肯定も否定もしなかった。
「……桃山さんはどちらでそんな話を?」
少しの間があって彼は探るように言葉を繋げた。
「昨日はうちの弟がお世話になりました?ご挨拶してもらったみたいで」
「……そうでしたか。しかしプライベートの事を公に話されると立場上仕事にも影響がないとも言えませんのでこれからはご遠慮いただきたいところですが……?」
「つ、」
「では、失礼します」
低いトーンで話す小早川君の言葉に一瞬誰もが口を閉ざしフロア内に奇妙な静けさが襲う。
その静けさの中、カツカツカツと革靴の音がして彼が近付いてきたのが分かった。
何故か私が緊張して体が固まる。
隣に立つ気配がしたと思ったらパソコンの画面を覗き込むように私の顔のすぐ横に彼の顔が近づき、その距離に思わず息を止める。
「おはようございます。すみません新しいキッチンのパワーポイント出来てます?」
ビクリと肩が上がり、ぎこちなくマウスを動かす。
「は、はい。出来てます。共有フォルダのキッチン、の所に金曜日の日付で入れてあるので確認しといてください」
声が震えないように平静を装った。
回りの視線が痛い。