俺様御曹司による地味子の正しい口説き方


浮かれた気分のままパソコンを立ち上げる。川北次長に午後の商談に使う資料の変更を頼まれていたのだ。金曜日の帰りにプリントアウトして変更箇所の確認だけお願いしてあった。

プリントアウトした用紙に『OK』の文字が入り私の机に置かれていた。

よし、A2サイズに印刷してっと……あれ。フォルダが無い。
えっ、ちょっと待って。
デスクトップに川北次長の名前でフォルダを作っていたはず。
えっ!?
嫌、駄目だ。
探す時間も勿体ない。
今すぐ作れば間に合うはず。

すぐに頭を切り替えて今出来る最善の事に取りかかる。

白黒だけど印刷した原本はここにあるんだから、とりあえずこの通りに作れば大丈夫だ。

それからは一心不乱に手を動かした。
作ったばかりだし、レイアウトなんかも覚えてる。
回りに人が増えてきた。上の空で「おはようございます」と繰り返しようやく資料が完成したのは11時前だった。


会社を出るのが11時半だっていっていたからギリギリ間に合った。
少し前に帰ってきたばかりの川北次長に事情を説明し頭を下げて再度確認を頼んだ。
A2サイズに印刷し直して川北次長に手渡すことが出来た。

「頼んでいた資料が先週末には出来てるのも分かっているから何とも言えないが、間違って消したとか?じゃなければ誰かが笠原さんのパソコンを使ったときに間違えて消したかだよな。どっちも苦しいけど悪意があってしたかどうかとか今の時点では部下を疑えないし、自己防衛としてパスワード変えとくように」


頭を下げる私にそう言って許してくれた。

川北次長の言うとおりだ。
金曜日、ちゃんとデーターを保存してシャットダウンした。でも実際はデーターが消えている。
誰かが触ったのは明白で。
ロッカーの時のように気味の悪さだけが残った。とりあえず、誰にも触られないようにパスワード変えとこう。

これもロッカーの事と繋がっているならば、結構悪質になってきてるなぁ。
困ったな。


午前中、資料作成で潰れてしまったせいで今日はいつもより遅くなってしまった。


早く片付けて帰らないと。

デスク回りを片付けていると電話が鳴った。月末と言うことで数名の営業マンが残っているが、電話を受けた。

「ありがとうございます。一ノ瀬建設です」

「杏?」

「お、お疲れ様です」

「うん、お疲れ。やっぱりまだ仕事してた。何回ラインしても既読にならないからさ残業してるのかと思って。忙しかった?遅いじゃん」

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