俺様御曹司による地味子の正しい口説き方
視線をあげると、目の前にいる可愛い恭一君の幼馴染みのキヨさんが笑顔で立っていた。
昨日とは違う冷たい視線を私に向けて。
「こんばんは。キヨさん」
「少し、お話いいですか?昨日行ったカフェに入りましょう?」
訪ねられていたはずなのに決定事項のようにキヨさんは私の答えを待たずに歩きだす。
せっかく恭一君の声で浮上した気分も一気に吹き飛ばしてしまいそうだ。
ここでまさかのダブルパンチはキツイ。
そう思っても着いていくしかない雰囲気にため息しかでない。
お腹すいたしな。
偶然にも昨日と同じ席しか空いておらず、向かい合って座った。
疲れたときのカフェオレをアイスで頼み、早く帰りたい私から話を切り出した。
「えっと、今日は……?」
先程から感じる私を値踏みするような視線はきっと気のせいなんかじゃない。
「はっきり言います。恭一と別れてもらえるかしら?」
そうきたか。
「はっきりですね……。理由を伺っても?」
クスリと笑うその笑い方は、妖艶といえそうなほど色っぽくて。
同じ年だと聞いていたのに、この差はなんだと感心してしまうほどだった。
「理由は……見に染みて実感しているんじゃないかしら?恭一の隣に立って、並んでみても私と貴女じゃ一目瞭然よね。私、ずっと彼と一緒に居たの。どれだけ彼女が変わっても最期は私に頼ってきたわ。貴女が勘違いする前に終わらせましょう」
にこやかに話続ける内容はその笑顔とは程遠くどす黒かった。
はっきり言って、こわい。
えーーー。
どうしよう。
逃げたいんですけど。
あっ。
ふと思い出した、恭一君からの帰宅ライン。
遅くなったら心配しちゃう。
「あ、あの。少し待ってください」
キヨさんに断りを入れて携帯を開く。
ここは華ちゃんに口裏を合わせて貰おう。
『更衣室で華ちゃんとご飯を食べに行くことになりました。遅くなります。また帰ったらラインします』
急いで恭一君に連絡を入れて、華ちゃんにもお願いしておかなきゃ。
『突然すみません!今から華ちゃんとご飯に行くことにしてください!必ず後日説明します!』
平謝りのスタンプを押して、携帯を閉じる前に、キンコン、と一件受信する。
『帰りったら必ず連絡を入れるように』
心配性の恭一君に顔がほころぶ。
了解しました。のスタンプを押して今度こそ携帯を鞄に締まった。