俺様御曹司による地味子の正しい口説き方
「それは……私が恭一君の仕事の邪魔をするってことですか?」
何故?とか。どうして?とか。
もう聞く気もなかった。
彼女が言っていることは、私が恭一君から離れなければ……と、言うことだ。
「そうなるのは嫌よね?って話よ」
「それは、嫌ですね……」
キヨさんが何もしなければどうにもならないんだけど……と、至極当然の反論は口に出さずに飲み込んだ。
今は言える空気じゃない。
それくらいは分かる。
この手の女の戦いは、私の中では漫画やドラマのなかだけのことで、正直『本当にこんな人いるんだなぁ』くらいにしか思えなかった。
とりあえず、桃山さんと話し合えれば解決しそうな問題だし今日はもう早く帰りたい。
「恭一にも後一週間って言われてるし、今週中にお願いね。そうしたら私たちはそのまま婚約できるから」
「後一週間……ね……。
━━はぁ。すみません。お話はもう結構です。帰らせて頂いてもいいですか?」
とにかく疲れた。
早く帰りたい。
「そうね。じゃあ宜しくお願いします」
フフフ。と楽しそうに足取り軽く店を出る。ドリンク代を受け取ってもらおうと小銭を渡すと「誘ったのは私だから」と受け取ってもらえなかった。
まぁいいか。
朝のドタバタも話の流れからすると大元はキヨさんのせいかもしれない。ここは迷惑料としてありがたく受け取ろう。
店先で頭を下げながらお礼を言う。
すると何故か側に近づかれ、耳元に囁いてきた。
「貴方、恭一ともう寝た?彼、キス魔でしょう?終わった後も暫くがっちり抱き締めてくれるし」
「っ、」
「フフフ。あれ、彼の癖なのよ。勘違いしない方がいいわよ。まぁ、私にはそれだけじゃないけど。フフ。じゃあね」
「っ、」